Hキューブ§2


Hキューブはその姿を悠然と晒し、
まるで富士山のようにどっしりと構えている。
私に話しかけてくるように堂々とした御姿。
神々しい。
「いつの日か人々はHキューブの美しさに気付くであろう。中には手を合わせHキューブを拝む連中が現れても不思議ではない。やがて人々はここに祠を造り、Hキューブを奉るであろう。ゆくゆくはHキューブ神社が出来、人々はHキューブをありがたり、ここで神技を行うに違いない」
私にそんな妄想を抱かせるほどに、Hキューブは美しかった。


夕方の帰り道。
いつものように川べりの道を歩いている私は見た。
ジャージ姿の中学生数人がHキューブの周りをグルリ取り囲んでいる。
10人は超えていただろうか?
もー大人数。
わいわいがやがや。
彼らは私が脇を通るのに気付きもしない。
中学生達はみな鼻の下を伸ばして興奮している。
もー笑ってしまうほどに我を忘れている。
「檻の中に放り込まれた肉を食べるライオン」という表現を通り越して、
最早彼らはトランス状態だった。
祭り?宴?…いや、「蝕」だな。
だって、そりゃそうだろう。
思春期の彼らにHキューブは宝の山だわな。
いうまでもなく、川べりに怪しげなモノが捨てられているのは昔も今もヨクあること。
私は彼らの中に昔の自分を見たような気がした。
「やめろー!!!!!触るなー!!!!!誰かー!!!!!助けてくれー!!!!!」
Hキューブの断末魔が聞こえたような気がしたが、
私は耳を塞いでスタスタ通り過ぎた。
Hキューブよりも彼らを、つまりは昔の自分を選んだのだ。
「全ては因果律により導かれしこと」
私はボイドを真似てつぶやいた。