めんどくさい女§3


事件は突然だった。
朝、いつものようにチャリンコで工場に行って部屋に入ってみれば
ミサコさんが部屋の隅でシクシク泣いている。
傍らで顔を真っ赤にして押し黙る工場長。
遠巻きに見る他のバイトメンバー。
・・・あれー?
参った。
変な所に来ちゃったな・・・。
どうやら、イライラメーターが振り切れそうだったのは
私だけではなかったようだ。
次の日からミサコさんは工場に来なくなった。


私は違うパートナーとコンビを組み
毎日黙々と何かいる部屋でダンボールを組み立てた。
一ヶ月後、何千というダンボールを組み立て
私はなんとかノルマを達成し、
短期バイトは無事終わった。
最後に工場長にコレだけは訊いておきたい。
私は工場を去る前にわざわざ工場長に逢いに行った。
「工場長、この工場って『死形場の跡地』に建ってるって本当ですか?」
めんどくさそうにコチラを見ながら工場長は応える。
「・・・なんだよ、オマエもアイツみたいなコト言うのか?」
「いや、なんつーか、その、真偽を確かめておきたくて・・・」
「ふーん。まぁいいさ。オマエはヨク働いてくれたしな。よし、話してやろう。ここはな、『死刑場の跡地』ではない。ここで人は殺されてはいない。ここで殺されていたのは『動物』だ。遠い昔、ここは肉の解体場所だったのさ。『肉切り場』っていうの?『屠殺場』と言うのが正しい呼び方らしいけどな。オマエだって肉を食うだろ?食品加工をここでやってたってことさ。ここって川沿いだろ?血でべとついた刃物を、この川で洗い流してたらしいぜ。まぁ『肉切り場』なんてイメージが悪いだろ?血を洗い流す川ってだけでイメージがドンドン膨らんで『人殺し』って根も葉もない噂がたっちまったんだよ。殺されたのは『人』ではない。牛や豚『動物』が殺されてたんだ。『処刑場』だなんて、真っ赤な嘘だ」
「へー、そうなんすか。安心しました」
工場長はカラカラ笑う。
「なんだよ、オマエもアイツみたいなことを言うのか?アッチの世界の住人でも目撃したか?」
「いや、俺にはそんな力ないっすよ。実際、この部屋にも何も感じませんでしたし」
「だろう?何も感じねーよなぁ。全く、くだらねーよ。そんなん出たら俺がとっ捕まえて見世物小屋でも始めるっつーの。俺は毎日ココで働いてるけどな、一度だって何かを感じたことはない。工場の隣りは俺の家があんだぜ。家族だって住んでんだ。変な噂は立てて欲しくないね。腹立たしいよ。しかしなぁ、時々いるんだよ。勝手な噂を鵜呑みにしてさぁ、『ここには何かいる』って言うオカシナ連中が。アイツもそうさ。『自分だけ特別な能力がある』みたいな言い方しやがってよ。全く、くだらねーよ」