視聴率貧乏神 9


私は標準語にトライしてイキナリつまづいた。
素直に言えない言葉がある。
標準語では語尾に「ネ」を付けて話す。
「〜しちゃったんだよネー」
これがドウも苦手だった。
東京の方には分かりにくいであろうが、
伊勢言葉で育った私には語尾に「ネ」を付けるのは軟弱な気がするのだ。
語尾に「ネ」を付けるなんてレディーではないか!!!!
強い抵抗を感じたものの、背に腹は変えられぬ。
私は語尾にはあまねく「ネ」を付けて対応した。
「生まれ育った伊勢を捨てるのか!!!?!?!?!!??」
「オマエに郷里の誇りはないのか!!??!!?!!?!」
背後から伊勢の友人達の罵声が聞こえてきそう気がして後ろめたかった。
しかしながら、ソンナモノ無視だ!!!コノヤロー!!!俺は標準語をしゃべるんだー!!
中には私が標準語を話すようになったことに気付き
優しく諭してくれる友人もいた。
「直す必要ないよ。君の言葉はソウルフルで素晴らしい」
しかし、私は友人の優しい言葉も跳ね付け標準語習得に邁進した。


私は、日夜、喉から血反吐をはくほど標準語を繰り出し、
一つ一つのイントネーションを学んでいった。
半年後、努力のかいあって、
私はいつしか八王子ネイティブと間違われるほどの標準語をさえずるようになった。
「『標準語』と『伊勢弁』を話せるなんて、俺はバイリンガルだな」
私はニヤリと一人ほくそ笑んだ。