視聴率貧乏神 2

「オマエはね、世間とは異次元の世界の住人だ」
・・・なんだと?

「将棋の時間」とは日曜日の昼前、大の大人が正座して向かいあい、
「これでもか」と眉間に皺を寄せ、黙したまま、パチリ、パチリと駒を打つアレである。
「10秒・・・・20秒」という声しか聞こえてこないが、
盤上には勝負の火花が散っており尋常極まりない緊迫感が漂う。
そこにあるのは食うや食われるやの世界である。
野獣同士の戦い。
世界で一番スリリングな番組なのだ。
毎週手に汗を握り、テレビに噛り付く私にとって
これ以上ないエンターテイメントなのである。

見るがいい。
このサワヤカな受け答えを。

「お爺ちゃんかよ?」
「リハビリだな」
「毎週録画?存在するんだ?そんな人間が」
「視聴率なんてあるのか?あの番組に?」
友人達はゲラゲラ笑い、口々に驚きの声を上げる。
なんなのだ?この私との温度差は?
私はあの番組ほど熱いものを知らない。
だから、この間抜けな友人達に教えてやった。
「オマエラ知らないの?あの番組はなぁ、20年以上続いている伝統ある素敵な番組なんだぞ。」
火に油。
爆笑の渦。
「20年?」
「奇跡だ」
「そんなこと知りたくなかった」
NHKの執念を感じる」
「民放なら即打ち切りだ」
「電波の無駄遣いだ」
もはや語るまい。
友人達はまるで妖怪でも見るように私をジロジロ眺める。
好奇の眼。
なぜ、そんな眼で私を見るのだ?
そして、話は「どうしたら『将棋の時間』の視聴率を上げることが出来るか?」という方向に向かっていった。
「司会を『タモリ』にしろ」
「いや『みのもんた』だ」
「ジャニーズ連れて来い」
「女子はコスプレして対局すればイーんじゃねーの?」
「いや、水着だな」
・・・ムチムチのレディーが王将片手に・・・ゲフン、ゲフン。
酔いも回って、友人達はモハヤ言いたい放題。
好き勝手言いやがって!!!!
私の愛する「将棋の時間」に対するなんたる侮辱!!!!
私の堪忍袋の緒はパッツンパッツンに張り詰め、
心の中では黒い何かがブスブスと音を立て煙を発していた。