メディアの虚構

土曜日の昼間、何気なくテレビを見てた。
ガスター10の人がアフリカを旅する番組。
そしたら、例のエチオピアの民族が画面に現れた。
ムルシ族。
女性が下唇に皿をいれる民族。

テレビの中で、ガスター10の人が民族の女性に聞く。
「なんで下唇に皿なんか入れてんの?」
「決まってんジャン、綺麗だからよ」
で、ナレーション。
「変わり続けていく私たちに、変わらないことが大事だとムルシ族は教えてくれているのかもしれません」
で、CM。
思わず苦笑い。



ムルシ続は自分の姿を写真にとらせた後、必ずお金を要求する。
確か、一枚2ブル(約30円)が相場だったかなぁ?
ムルシ族は経済的に決して裕福ではない。
むしろ貧困極まりない民族。
もともとエチオピアの奥地でひっそりと生活する民族だったんだけど、
その異様な姿がメディアで紹介されるやいなや、世界各国から取材が殺到した。
そうして、ムルシ族は皿を下唇に入れた自分の姿をカメラに撮らせることで金がもらえることを学ぶ。
自分の姿を売って、金を稼ぎ、生活を支える。
民族の誇りとやらを云々する前に、貧しさが彼らをそうさせる。
奇異の目で見られることで生活が成り立つ、寂しい民族。
それがムルシ族。
辺見庸さんの「もの食う人びと」にもムルシ族は出てくる。

「(外部社会は)つまるところ、ムルシ族の女性の口にしか興味を持たなかったのよね。」
(中略)
近年、イタリアなどの旅行会社が「秘境ツアー」と称してムルシ居住区域に観光客を送り込んでいる。テレビ局や、写真家も入った。口に皿をはめた女性の写真を撮ってはお金を払い、ムルシ族の多数がそれを当たり前と考えるようになったのだ。
「文化の破壊だわ。」

テレビではそういう背景には全く触れず。
おそらくはアッタであろう撮影交渉の金銭のやり取りも全てカット。
村の女性たちが皿をはめたままガスター10の人を笑顔で囲む。
キャッキャッと無邪気にはしゃぐ女性陣。
ガスター10の「なんで?」の質問に「綺麗だからよ」
…ソレ本当?
ソウ応えれば、取材側が喜ぶことを知ってんじゃないの?
ムルシ族の現状を紹介もせずに「変わらないことが大事」とは。
民族の「姿」だけを消費してムルシ族の生活を変えさせたのはメディアだよねぇ?と思う。
テレビから流れる、ほのぼのとした映像とナレーションは、モウ「嘘」と言ってもいいんじゃないか?とも思った。



映像だけを見てては間違った印象を受けますよっていう典型例だろう。
みなさん、メディアってのはこういう性格を持ってます。
事実の根っこは映像からではワカリマセンよ。
情報リテラシーってやつを働かせて、クレグレも用心深く、メディアと付き合いましょう。
だからといって、用心しても、メディアからの間違った印象を全て取り除くことは出来ないのだけれども。

もの食う人びと (角川文庫)

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