誉めない女

私の知りあいに仲間内で有名な女性がいる。
この女性「他の女性のことを決して誉めない」のである。
彼女の回りの女性は口を揃えて言う。
「特にね、女の子の外見は決して誉めないわ」らしいのである。
どういうこと?
知り合いに詳しく聞いてみた。

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この誉めない女性のことを仮に中田英子さん(仮名)と名付けよう。
具体例、其の1。

英子さんと同僚Aはある女性と仕事を一緒にした。
そのある女性は英子さんと同じ歳の方だった。
厳しいが、仕事をよく知ってる経験豊富な女性だった。
会話の内容も知的で、とってもチャーミング。
笑顔が素敵で魅力的な女性だと同僚Aは思った。
同僚Aはその女性に好感を抱いた。
そして、それを英子さんに言ってみた。
同僚A「キレイな人だねー」
英子「そうね、キレイにしてる人よね」
同僚A「服装も清潔感あって良いよねー」
英子「そうね、彼女はキレイを心がけてるわ」
同僚Aは噛み合わない会話をそれ以上続けなかった。

続いて、具体例、其の2。

ある日の夜、英子さんと後輩Bは食事会に出かけた。
そこで英子さんと後輩Bは20歳半ばの女の子と知り合った。
英子さんとその女の子は意気投合したよう。
後輩Bも含め三人で一緒に食事会を過ごした。
三人は短い時間でとても打ち解け、
まるで同窓会のように楽しい時間を過ごしたそうな。
帰り道のタクシーの中。
後輩Bはミンナで一緒に撮った写真を眺めながら英子さんに言った。
後輩B「〜ちゃんって可愛いですねー」
英子「そうね、若いわ」
後輩B「そうですね、若いですよねー。目がくりくりしてて、可愛かったですよねー」
英子「そうね、良い子だわ」
後輩B「・・・そうですよね。良い子ですよね」
さっきまで、あんなにニコヤカニ喋っていたのに
英子さんの会話の節々にツンケンしたものを後輩Bは感じたそうな。

具体例、其の3。

実は私も経験したことがある。
ある集合写真をミンナで眺めていた時の話。
一人の女性が写真に写った女の子を指差し
「この子可愛い♪」と声を上げた。
「そう?可愛いかしら?」
間髪入れずツッコミを入れたのが英子さんだった。
その「可愛いかしら?」の一言が妙に刺々しく、
場の雰囲気が白けたことがあった。

そんな英子さんと10数年来の友人の女性は酒を飲みながらコウ分析する。

「アノ子、他の女性に対して『キレイ』とか『可愛い』とか死んでも言わないのよ。なぜって?30過ぎてもマダ、自分が一番可愛いと思ってるからよ。そりゃ確かに若い時はね、アノ子はとても可愛かったわよ。でもね、こう言うじゃない。『キレイと言われる時は短過ぎて』って。もう英子も30オーバーでしょ?オーバーサーティー、言葉の響き通りにオバサンなのよ。世間はソウ見るわよ、そりゃ。英子はチヤホヤされてきた分、その甘い過去から抜け出せないのよ。今となってはそんなものは過去よ。今は昔よ。ごらんなさいよ、今じゃぁ、回りの男どもは英子より若い子の方に群がるでしょう。そりゃ、そうよ。男どもは、多少可愛くなくても若い子のが良いんだもの。当然よ。でもね、英子はソレが気に入らないのよ。英子はソレを受け入れられないんだわ。『ただ若いだけで、なんでチヤホヤされるのよ!!!』って心境なの。わかる?これまでサンザン甘い蜜を舐めてきたくせにね。
それを証拠にアノ子の前で、若い子を誉めてごらんなさいよ。英子、絶対肯定しないから。ネバー肯定よ。私、英子が絶対肯定しないから、悔しくなってきて、英子の前で若い子の外見を褒めちぎってやったわよ。でもね、英子は最後まで肯定しなかったわ。頑固者だわね。あぁ、可哀相な英子、なまじ若い頃チヤホヤされた記憶があるだけに、今になって寂しい想いをしてるのよ。いい気味だわ♪
あら?貴方達、来週に英子と会うの?なんだー。お生憎様。気をつけなさいよー。彼女、若い男を狙ってるんだから。女版ドラキュラよー。アノ子、歳は行っててもキレイだからね。オッパイの大きさに騙されちゃダメよー。あれ、嘘乳だからね。ウフフフフ♪あぁ、結果が楽しみだわ。貴方達の中の誰かが英子の毒牙にかかるかと思うと嬉しくなっちゃって、私、夜も眠れないわ」

大体こんな内容だった。
この友人は面白おかしく茶化して、過激な分析をしてますが、
おそらく、この分析の本筋は間違ってないだろう。
そんな、英子さんと今夜逢います。
友人数人で開くお食事会ってやつです。
「女版ドラキュラ」。
そんな言葉は初めて聞いたぞ。
しかし、面白いではないか。
ちょっぴり怖いけど、
じっくり観察してきましょう。