視聴率貧乏神 10


次に私は自分を着飾ることを試みた。
伊勢では学生服オンリーしか着ないような日々をおくっていた私。
東京にのこのこやって来た当時の私はイオンやダイエーでやってるような
ワゴンセールの売り物の服しか持ってなかったのである。
そんな私の私服のセンスはゼロに等しかった。
私は大学に入って、初めて自分を着飾ることに目覚めたのである。
友人達の着ている服を自分の服装と比較して思った。
「こんな服装ではバカにされる!!ファッションを勉強せねばならん!!!『シティボーイ』なるものにならなくてはいかん!!!」
私は「メンズノンノ」やら「スマート」やらの雑誌を買って
日々ファッションの研究に没頭した。
そう、地方出身者の皆さんがすべからく通る道だわな。
私もごたぶんにもれず、定石どおり地方出身者の王道をひた走ったのである。


今にして思う。
当時の私は要約すれば「違う自分になりたかった」のである。
今ではない、他の自分になりたくてコスプレをしていたようなものだった。
バイトで必死にお金を貯めて、
雑誌に載っているような服を着て、標準語を操り、
私は違う自分になったような気でいた。
私は調子に乗っていた。
今、当時の私が眼の前に現れたら私は爆笑して、
きっと過呼吸で笑い死にしてしまうだろう。
「背伸びすんなよ(笑)」と悶絶しながら昔の自分の肩を叩くに違いない。
しかし、当時の私にそのような真っ当な突っ込みをいれてくれる人はいなかった。
「俺はシティーボーイだぜ。伊勢は捨てた」
当時の私は本気でソウ思っていたのである。
いっぱしのイケメンになったつもりでいたのだ。
雑誌に載っているモデルさんを目指し、
これまでと違う誰かさんになったつもりでいたのだ。
ああ、阿呆の真骨頂。
どんなに着飾っても己は己のままである。
ハイジが白いフリフリのシャツの上から青いワンピースを着て、髪を金髪に染め大きなリボンを付けたってクララにはなれない。
クララが原色のワンピースを着て、髪を黒く染め、ペーターやユキちゃんと仲良くしたってハイジにはなれない。
どこまで行っても私は伊勢出身の田舎のニーちゃんを引きずったまま人生を全うするより他にナイのだ。
そんなコトを思い出してたら学生時代の友人に謝りたい気持ちになる。
当時の私はきっと鼻持ちならない嫌なヤツだったに違いない。
「俺はこれまでの俺とは違うぜ」とさりげなく主張するメンドクサイ奴だったに違いない。
コレを読んでくれている学生時代の友人諸君。
性狷介にして自ら恃むところすこぶる厚かった当時の私を許して欲しい。

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標準語を操り、こんなにオシャレなイケメンを捕まえて
『ビンちゃん』とはドウいうことか?
あな口惜しや。
私は一人憤った。
イケメンにあるまじき称号ではないか!!!!!!


そんな時、我家に来客が現れた。
チャイムが鳴り、ドアを開けてみれば
ウィスキー片手に友人がニコニコしながら立っている。
「実家からカッパラッてきたウィスキーだよ。一緒に飲もうや」
来客は笑顔が爽やかな「エロ仙人」だった。